先物取引を行った場合の確定申告における必要経費はどこまで認められるのか

後藤章仁

 近年、外国為替証拠金取引いわゆるFX取引が身近になり、主婦を中心に個人が活発に取引を行っているようだ。このFX取引については、少ない資金で多くの金額を動かすことができるため、レバレッジがかかり、一夜にして大金を儲けることもあるようである。

 このFX取引において利益が出た場合には、所得を得たことになるので原則として確定申告を行わなくてはならないこととなるが、それではこの外国為替証拠金取引については税法上どのような取扱いをしているのであろうか。

 

【取引方法により負担する税金が異なる】

 FX取引は税法上「先物取引」に分類される。この先物取引については、取引の方法によって税法の取扱いが異なっている。

東京金融取引所を通じて行う「くりっく365」の取引の場合は優遇規定として、@申告分離課税として20%の税率であること、A他の取引所での証券先物や商品先物との損益が通算できること、Bもし損失が出ても3年間にわたり損失を繰越せる規定がある。(措法41条の14・同条の15

一方のFX会社が直接取引を行う「相対取引」の場合は総合課税として課税されるために、損益通算や損失の繰越は利用できないこととなっている。

どちらの取引を選択することが有利となるかは、投資家それぞれの取引実績や所得の構成が違うために決められないが、課税所得金額が330万円を堺にして「相対取引」の場合の税率が20%を超えるのに対して、「くりっく365」は20%の税率で終えるため、もし他の所得がないものと仮定すると、課税所得が330万円を超える方は「クリック365」の取引のほうが、損失の繰越しもできることから明らかに有利のようである。

 

【損益の計算】

次に一年分の損益はどのように計算するのであろうか。FX取引で売却した取引の一年分の為替損益とスワップポイントをまとめて損益を計算することになる。差金等決済に基づいて利益若しくは損失を計算するのである。この場合において委託手数料とその他の経費は、必要経費としてとして認められることから差し引くことになる。

この必要経費については税法上の規定について複雑なところもあり、また多くの問題を含んでいる。そこでこの点について考えてみたい。

 

【必要経費の問題(委託手数料)】

(福井地方裁判所 平成16年(行ウ)第8号 

平成13年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消請求事件)

 

FX取引を行う場合には、その商品を継続して建玉をしていくことになる。差金決済を終えて年末を終えることも限らず、場合によっては建玉を残したまま翌年に持ち越すこともあろう。この場合において、先の建玉残に係る委託手数料について必要経費の可否について過去争われたことがあった。この事件の判示については次のとおりである

 

『原告は、平成13年末における建玉残に係る委託手数料を必要経費として控除すべきであると主張する。

しかしながら、所得税法361項は、雑所得についての総収入金額に算入すべき金額は、「その年において収入すべき金額」と規定し、同法371項括弧書において、必要経費に算入すべき金額について、「その年において債務の確定しないものを除く」と規定し、権利及び債務が確定していない場合には、総収入金額及び必要経費には算入しないことを定めており、同法37条1項は、雑所得の計算上必要経費に算入すべき金額は、雑所得の「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」旨規定し、いわゆる費用収益対応の原則を採用している。

そうすると、商品先物取引においては、建玉をしただけでは、未だ収入に当たる売買差損益金が確定していないから、建玉の委託手数料は、その時点では必要経費として算入することはできず、当該売買の目的物となっている商品の転売又は買戻しの取引によって初めて、収入に当たる売買差損益金が確定し、それに応じた経費である委託手数料を必要経費として算入することができると解される。

したがって、建玉をすれば、当然にその委託手数料を要することになるという理由から、平成13年末の建玉残に係る委託手数料を必要経費とみることはできない』

 

すなわち、委託手数料については、建玉を行ったのみでは必要経費とされず、その後の差金決済を行うことにより始めて必要経費として認められないということである。FX取引で生じた、委託手数料については全額を必要経費としないで、建玉残に係る委託手数料は次年度以降の経費とすることが懸命であろう。

 

【必要経費の問題(その他の経費)】

FX取引を行った場合の所得は、事業所得、若しくは雑所得として取り扱われる。事業所得となるためには、[1]営利性、有償性、[2]継続性、反復性、[3]自己の危険と計算による企画遂行性、[4]精神的、肉体的労力の程度、[5]人的、物的設備、[6]資金調達方法及び[7]職業、経歴及び社会的地位などを総合的に判断する必要があり、安易に事業を行っているかのように装っても認められることは少なく、多くの判例では納税者の主張は退けられている。

そこで一般的には雑所得としての申告をするのであるが、この場合に認められる必要経費については、委託手数料以外にどこまでの経費が認められるのかという問題が存在する。

例えば、FX取引を行うための勉強会に参加した費用や、ネットを使用して取引を行った場合の通信費など、その他にもFX取引に関係する経費は存在するわけであり、これらの経費をどのように取り扱うかというと明確な規定は示されていないようである。そこで、先物取引に係る必要経費についての法解釈を試みてみたい。

租税特別措置法41条の14においては、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」を規定している。この規定は、先物取引に係る差金等決済を行った場合には雑所得及び事業所得の計算については、他の所得と区分してその年中の先物取引による事業所得の金額及び雑所得の金額として一定の方法により計算した金額に対して15%の税率により課税を行うとする規定である。この規定はあくまでも課税方法の特例であるため必要経費については定めていない。

また、この規定を受けて租税特別措置法施行令26条の23(先物取引に係る雑所得等の金額の計算等)においても計算規定は定めているが、やはり必要経費についても定めていない。

さらに規則まで掘り下げると、首肯することが書かれている。租税特別措置法施行規則19条の7@項2号においては、「確定申告書に添付する明細書に記載する必要経費については、先物取引の差金等決済に係る先物取引に要した委託手数料の額及びその他の経費の別」と規定している。この規定において、はじめて経費について規定されたのであるが、ここで注目すべき点は「その他経費」とではなく「その他の経費」と書かれていることである。法解釈を試みる場合には、細かな言葉の意味を性格に読み取る必要があるのであるが、この「その他の経費」という意味について考えてみると、法解釈上「その他の」と書かれている場合には、通常、前に置かれた名詞又は名詞句が後に続く一層内容の広い言葉の一部をなすものとして、その中に包含される場合に用いられる。すなわち、ここでいうところの「その他の経費」とは、委託手数料に限らずもう少し広い意味での経費を立法担当者は考えていたものと思われる。

しかし、ここまで述べてきた租税特別措置法41条の14に関係する規定は、課税の特別規定であるから、事業所得や雑所得の必要経費について規定しているのではない。租税特別措置法は所得税法に対する特別法であるため当然に優先適用されるのであるが、ここでの措置法は税額等について定めているものであり、必要経費についての特別法ではない。すると必要経費の範疇を捕らえるためには所得税法の本文により解釈する必要がある。

 

これまで述べてきたとおり、先物取引は事業所得若しくは雑所得に該当すると述べた。雑所得に該当するとした場合は、所得税法35条(雑所得)の規定を受けことになる。同条22号(雑所得)において「雑所得の金額はその年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする」と規定しており、この規定を受けて所得税法37条(必要経費)において経費についての制限を受けることになる。

同法37条1項は、雑所得の計算上必要経費に算入すべき金額は、雑所得の「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」旨規定し、いわゆる費用収益対応の原則を採用している。

そうすると、法文解釈から考えると、FX取引において生じた必要経費の考えは、所得税法371項に準じて考えることになるので、FX取引の勉強会における参加費用やネットを利用した場合の通信費など、FX取引に関係して生じた経費については、税務上の必要経費として認められることも考察される。

いずれにしても必要経費として認められるためにはその根拠を証明できるようにすることが重要であろう。

転載厳禁 2009/08/22